甘いもの

 ×LIVE×のオムニバス第二弾!



 「おまえが悪いんじゃないかっ!」


 いつものように、いつもの罵り合い。
 よく考えれば、どっちもどっちな事だが
 この場合、罵り合うことが大切なのだ。


 「私は悪く、ない!」


 勝気な瞳に、きっぱりとした言葉
 目の前の幼なじみは『憤慨』の表情でこちらを睨む


 こうなるとお互いの性格上、一歩も譲らない長期戦がはじまる


 この石頭!
 とーへんぼく!
 がり勉
 変人!
 鈍感っ!!!!


 ありとあらゆる『けなし言葉』の最後に彼女がぶつけてきたのは
 極めつけ。


 …だいっきらい!!!



 もちろん
 彼女がそれらの言葉を並べ立てる間に俺も


 こんにゃく頭よりはマシだ
 自分のことか?
 お前みたいになりたくはないからな
 大いに結構
 お?それは誰のことだ??


 を、きっちり挟んだが。


 そのせいなのか、はたまた根負けしたのか
 最後の方は涙目だった
 …だが、俺にはどうしようもない


 暴言一つ、吐いたまま。
 彼女は少女の描く夢想話のように
 身をひるがえして立ち去ることもせず、しばらくそのまま身じろぎもしなかった


 しばしの時間


 唐突に彼女はキッチンに向かい、そこで何かを作り始めた
 きゅっと唇を結んで、目を見張って、てきぱきと手を動かす
 俺は仕様がなく、自室にもどった。


 ばつが悪かったのも手伝って一人でいられるこの部屋は落ち着いた
 落ち着くと同時にやはり『馬鹿げた罵り合い』にますます憮然となる


 どっちでも良いならば、なぜ自分から謝らないのか


 至極、普通の考えであっても、受け入れがたいものはやっぱり
 受け入れがたいままなのである
 …自分の幼さに溜め息がでた




 どれくらいたっただろう
 ぼんやりベットに腰かけていた俺の耳に規則正しいノックが聞こえた


 コンコンコンッ


 普段よりひとつ、多いそれは昔と変わらない


 あえて無視していると、許可なく扉が開いた


 「……クルファオのケーキ焼いたよ」


 固い横顔を扉からほんの少しだけのぞかせて、彼女はそう言う。



 彼女がお菓子を焼くようになってから、変わらない、習慣


 喧嘩と余分なノックと甘いもの


 おそらくは、どちらかが性格を変えない限り繰り返されるであろう習慣だ。

 俺はどうしようもなくて、笑ってベットから立ち上がった


 「…いまいくよ」


 その返事を待つ前に、彼女は花が咲いたように微笑んでいた。